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日々のメモ
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 しん…と静まりかえった廊下。
 出口まではどのくらいなのだろう? 握られた巨大な刃物から滴る血が、白いタイルを濡らす。嘗て此処で同じように働いていた同僚や上司はもう居ない。皆【アレ】に食われ、有る者は肉塊に。有る者は徘徊する者に変わってしまった。全身に被った血は彼らだったモノの名残。泣きながら破壊して回った成れの果ての姿が、そこかしこにまき散らかされている。もう、この施設で【生きている】と呼べる人間は、私一人しか居ない。
 だが、私の生命活動も、あと僅かで終わってしまうだろう。それは彼らの血を全身に浴びた時に気付いた。血を媒介として入りこんだウイルスが、私の躯を徐々に蝕んでいる。痛覚はもう殆ど無い。有るのは飢えと倦怠感。この刃物を振るう力も、あと僅かしか残されていないだろう。残された時間は少し。私が私で居られる間に、【アレ】を始末してしわなければ…
 電気設備が完全に死んでしまった暗い廊下に、真っ赤に染まった白衣を着た男が一人。手に握られた巨大なチェーンソーも白衣同様血に濡れ、所々に赤黒い肉片がこびりついている。男は数度深呼吸をした後、真っ直ぐに廊下奥を睨み付ける。真っ黒な闇に蠢く何かを逃がさぬように。エンジンの切れたチェーンソー。ガソリンタンクに燃料は僅かしか残っていない。燃料の状況から、この機械が稼働する時間はあまり残されていないのが伺える。男に残されたチャンスは一度きり。ゆっくりとエンジンをかける。静まりかえった廊下に響く無機質な音に反応するかのように、一瞬目の前の闇が揺れた。静かに目を伏せるとチェーンソーの機械音に混じって男の呼吸音が聞こえてくる。心臓は緊張で痛いくらい鼓動を早くし、手足はガクガクと震える。だが、失敗は許されない。神経を集中し、気配を探る。真っ黒な闇の中に一つだけ強烈に存在を放つモノ。それが男が始末しないといけないモノだ。
 どちらにせよ、男の運命は既に決まっていた。
 男に訪れるのは確実な『死』。
 躯を徐々に浸食していくウイルスは、砕いた仲間から受けた死の洗礼。それはもう、避けられない事実だ。
「ふぅ……」
 深呼吸を数度繰り返す。覚悟は決まった。再び瞼を開くと、男はチェーンソーを構え直す。
「うおぉぉぉぉっっっっっ」
 回転する刃を前に付きだし大声で叫びながら、男は闇に向かって駆けだした。
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